そもそも鉄筋とは
鉄筋と聞くと、すぐに鉄筋コンクリートを連想される方も多いと思います。ビルやマンションなどの建築物、高速道路や橋といった構造物には、必ずといっていいほど「鉄筋」が使われています。
でも、なぜ建築に鉄筋が必要なのか、よく知らないという方も多いと思います。なぜ、鉄筋が重宝されるのか説明します。
鉄筋コンクリートが使われる理由
コンクリートは、砂や砂利をセメントで固めた建築材料です。型に流し込むだけで自由に形を作れる上に、非常に硬いので、さまざまな構造物に使われています。
しかし、コンクリートは、押し潰そうとする圧縮力には強いものの、引きちぎる引張力には弱いという特徴があります。反対に鉄は、引っ張る力に対しては強いのですが、圧縮力を受けると簡単に曲がったり変形したりしてしまいます。
この両者の欠点をお互いに補い合うよう開発されたのが鉄筋コンクリートです。コンクリートの中に鉄の棒を埋め込むことで、圧縮力にも引張力にも強い建築素材となるのです。
鉄筋とコンクリートは相性がいい
「コンクリートに強度を持たせるためなら、鉄以外の金属を埋め込んでもいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。実際に、鉄よりも引張力に優れた金属もあります。
実はコンクリートのような硬い物体でも、周囲の温度によってわずかに膨張したり縮んだりしています。この温度変化による膨張率が、コンクリートと鉄はほぼ同じなのです。そのため、温度の変化によって剥がれたりひび割れたりすることがありません。
また鉄は、酸性の環境だと錆びて強度が下がってしまいます。しかしコンクリートは弱アルカリ性のため、埋め込まれた鉄が錆びにくく、長期間にわたって強度を保つことができます。
そのほかに、コンクリートは鉄への付着性が高いといった理由もあります。そのため、コンクリートの補強に鉄筋が使われているのです。
鉄筋工事の流れ
鉄筋コンクリートの建物を造る場合、まず先に鉄筋工事を行います。その後、鉄筋の周囲を型枠で囲って、そこに生コンクリートを流し込みます。コンクリートが乾いて固まったら、型枠を外して完成となります。
鉄筋を組み立てるところまでが「鉄筋工事」で、鉄筋工と呼ばれる職人が担当します。型枠を組み立てるのは型枠工、コンクリートを流し込むのは生コン業者です。専門の職人が協力して作業をすることで、しっかりした建物ができあがるのです。
設計企画と技術提案
一般的な鉄筋工事では、設計段階で鉄筋工事業者が関わることはありません。しかし最近では、建物の耐震性が重視されていることもあり、建物の設計段階から鉄筋工事業者が加わるケースも出てきました。
どのようにしたら施主の希望が叶えられるのか、設計を担当する建築家から意見を求められることもあります。建築資材も日々進歩しているので、新技術について鉄筋工事業者からアドバイスをすることもあります。
施工図を作成
鉄筋工事の多くは、まず建物の設計図を入手することから始まります。設計図から、必要な鉄筋の種類と数量を割り出して、どのように鉄筋を組んでいったらいいのかを記した施工図を作ります。
最近では、耐震性を高めるため、使用する鉄筋の量が大幅に増えてきました。単純に鉄筋を組んでいっただけでは、柱や梁が交差する部分で、鉄筋同士がぶつかってしまいます。
そういった干渉が起きないよう、鉄筋の太さを考慮しながら施工図を作っていきます。施工図のほとんどは「CAD」と呼ばれる設計支援ソフトを使って、コンピュータ上で作成します。
資材の仕入れ
鋼材を扱っているメーカーや商社から、必要な鉄筋を仕入れます。鉄筋にはさまざまな太さや長さがありますが、いずれも真っ直ぐな状態で入荷します。
この状態を「生鉄筋(なまてっきん)」と呼びます。生鉄筋は、後の加工がしやすいよう、種類別に分けられて保管されます。
鉄筋の切断・加工
施工図に従って、生鉄筋を必要な長さに切って、曲げ加工をしていきます。鉄筋工事の中でも、一番の手間がかかる工程といってもいいでしょう。
鉄は熱を加えることで簡単に曲がりますが、鉄筋の曲げ加工は常温で、大きな力をかけることで曲げていきます。熱を加えて曲げると、鉄筋の強度が下がってしまう恐れがあるからです。
以前は生鉄筋を建築現場に運び込んでから、鉄筋工が手作業で曲げていました。そのため鉄筋工には、設計図や施工図を正しく読みとり、それに従って作業をする高度な能力が求められます。
建築現場に搬入
加工した鉄筋を、実際に組み立てる順序に従ってそろえ、建築現場へと運び込みます。搬入トラックに積み込む際には、積み荷の安定性やトラックの積載量も考慮に入れて行います。
建築現場に届いた鉄筋は、雨がかかったり、崩れ落ちて曲がったりしないよう、安全な場所で保管します。鉄筋の保管も、鉄筋工の重要な仕事のひとつです。
配筋
鉄筋を、施工図に従って組み上げていきます。この組み立て作業を「配筋」といいます。この配筋で建物の強度が決まるといっても過言ではありません。
実際の作業では、どんな順序で配筋していくのかも重要です。順序を間違ってしまうと、必要な鉄筋が入らなくなったり、建物の強度が下がってしまったりすることもあるからです。
最終的には鉄筋が、地面に対してきれいに水平・垂直になっていなければなりません。配筋では、鉄筋1本1本について、きちんと水平・垂直になっているか確認しながら行います。
嵌合
配筋の途中には、鉄筋同士を繋ぎ合わせて長くしたり、交差する鉄筋同士を結束したりといった作業を行います。この作業を「嵌合」といい、何種類かの方法があります。
メーカーが作る生鉄筋は、基本的に長さが12メートル以下となっています。それ以上長くなると輸送が難しく、加工や配筋も大変になるからです。
しかし建築物には、一辺が12メートルを超えるものもたくさんあります。建物の強度を保つためには、内部に繋がった鉄筋が入っている必要があります。そのため建築現場では、配筋をしながら鉄筋同士を嵌合するのです。
同じ建物内でも、場所によって嵌合の方法が違う場合もあり、間違えてしまうと建物の強度が下がってしまいます。そのため施工図に従って、手早く確実に嵌合しなければなりません。
配筋検査
すべての配筋が終わったら、施工図通りに配筋されているかをチェックします。これを「配筋検査」といいます。もし施工図と違っていた場合には、やり直さなければなりません。
おもなチェックポイントは、「ピッチ」と呼ばれる鉄筋同士の間隔や、使われている鉄筋の太さや種類などです。水準器を使って、地面と水平に配筋されているかもチェックします。すべての検査項目に合致しないと、合格とはなりません。
配筋検査で問題がなかったことを証明するため、各部で写真を撮って報告書を作ります。これでようやく鉄筋工事の完成です。その後は型枠工に引き継いで、コンクリートの流し込みが行われます。